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オーロラになれなかった人のために
DIOからの攻撃によって薄れゆく視界の中で、ふと空を見上げる。零れ落ちそうなほど星々は近くにあるけれど、オーロラの姿は見当たらない。
まあ、ここはエジプト・カイロなのだから、当然の話なのだけれど。
ぼくには幼馴染みがいた。彼女は廃部寸前の天文学部員だった。口数の少ない子だったけれど、嫌なことに対してはハッキリとノーを言える意思の強さを持っていて、年頃の女の子にしては珍しく群れるのを嫌っていた。
肉の芽で操られてしまい、何も言わずに承太郎の通う高校に転校しちゃったから、お別れの挨拶もろくに出来なかったな。
「またね」と言われたが、返事さえしなかった気がする。
彼女は今頃、どうしているのだろう。
幼馴染みと言っても、ぼくと彼女は世間が思い描くほど親密な間柄ではなかった気がする。
ぼくが彼女を突っぱねていたことに原因があるのだ。だって、幾ら昔のよしみでも、ハイエロファントが見えないような人と心が通じ合うなんて、あり得ないと思っていたからね。
でもジョースターさんたちと旅をして分かったんだ。
スタンドが見えるか見えないかなんて壁は、さほど重要ではない。
スタンドが見えなくても正義の心を持っている人はいるし、その逆の人間も存在する。
エジプトへ向かう旅の中でぼくの精神力が成長したのであれば、その点を理解出来たことが大きかったんじゃあないかな。幾分か他人のことを好きになれた気がするよ。
スタンド使いか否かでなく、もっと別の視点から、周りの人たちと接してみたいと考えられるようになったんだ。
まだすべての人にスタンドが見えると思っていた頃、ぼくはよく虐められた。
ぼくを虐めていた子たちの気持ちも、少しは理解できるんだ。だって、見えないものが見えるなんて、気味が悪いからね。
仲間外れは日常茶飯事だったし、持ち物を隠されるなんてこともあった。
思い返せば、彼女はぼくを仲間外れにすることはしなかった。
「のりあきくんはのりあきくんだよ」と、同級生の輪に加わることもせず、天文図鑑を眺めていたっけ。
そのページはいつも同じだったから、遠くで様子を窺っていただけのぼくでも、キミが何に夢中だったかは覚えているよ。
彼女はオーロラが好きだった。
前にどこかで呼んだことがある。オーロラは、若くして死に、悔いを残している魂たちが行き着く場所だと。
だからとても残念だけれど、ぼくはオーロラへは行けそうにないな。
DIOを倒す度に出たことを悔いたことなど、片時もないんだ。
ああ、けれど、ぼくと交わした「またね」の答えを探して、彼女が熱心にオーロラを観測し続けてしまったらどうしよう。
今すぐにオーロラになんて飽きてしまって、太陽とか月とか星とか、そういうものに心惹かれてくれるといいな。それだったら日本からでも見られるし、オーロラじゃあなくて惑星ならば、ぼくでも遊びに行けそうな気がするんだ。
それでももし、キミにとってオーロラが特別だというのならば、ぼくの精神の誇り高きビジョンの瞬きを、遠く日本で感じて欲しい。
ハイエロファント・グリーンは、オーロラと同じように虹色に光るんだ。
2019/6/17 初出
2020/12/13 加筆・修正